もともと超能力が使えた俺だけど、異世界に転生してみたらすっげえ無双できたwww3

 夢を見た。

 幸福な夢だった。あまりにも幸福すぎて、すぐに夢だと気づいた。

 俺はエミと二人で遊んでいた。俺もエミも幼いままだった。エミが俺にじゃれついてくるのを、何だかくすぐったく、心地よく感じた。

 前世の、幸福な記憶。

 失われた平穏。

 ありえない幻想。

 そう。そんなものは夢でしかなかった。エミは前世の俺が9歳の時に死んだ。今更、エミと会えるだなんて、そんな都合のいい話はありえないのだ。

 たかだか、あの程度の幸福すら、俺にとってはもはや手に入らない高嶺の花だ。

 だから――当然のように、壊れる。

 俺に触れるエミの手が、ぽろりと崩れた。指先から黒ずみ、腐敗し、ぐずぐずになっていく。

 “力”だ。これは俺の“力”だ。無意識でエミに使ってしまったのだ。

 一度腐敗が始まってしまえば、もはや止められない。

 腐った部分をすぐさま切り落とさなければならない。しかし幼い俺がそんな刃物など持ち合わせているわけがない。ただオロオロと見ているだけしかできず、俺の目の前で、エミは腐り果てていく。

 泣き出しそうになる俺を見て、エミはゆっくり首を振る。

 笑顔のまま。

 肩から胴体まで腐敗が広がり、エミの身体は崩れていく。土へ返る。

 俺は呪われているんだ、と再認識する。エミは、もはやただの土くれとなり、子供の俺は、それにすがりついてギャンギャン泣いた。

 

 

 たぶんクディタのせいだろうなあ。

 朝起きて、頭を振る。雨だ。どうも雨の日は調子が悪い。さらにあんな悪夢まで見ればもう呪われた一日の始まりと言って過言ではない勢いだった。

 クディタを見ているとエミを思い出す。異世界人のクディタと日本人のエミでは全然似ていないはずだが、それでも何故か思い浮かべてしまう。重ねて見てしまう。

 たとえいかなる人間であれ、エミの代わりにはならない。

 当たり前のことを、俺は自身に言い聞かせる。俺の脳みそはポンコツだからだ。教えても教えても忘れる。こういう重要なことはなおさらに、だ。

 不機嫌で不機嫌でしょうがない俺は、服も着ずに洞窟を出た。

 槍の穂先だった磨製石器が落ちているのを見つける。そう、昨日腐らせてしまった槍の残骸だ。俺はその石のナイフを手にとると、自分の左の手のひらに突き刺した。

 血があふれ出る。雨に薄められて地面に落ちていく。

 八つ当たり、だ。

 俺はその左手で適当な木に触れる。

 少し離れてから“力”を使う。

 血の付いた部分から腐敗が進行する。黒ずみ土となり、崩れ始め、それがじわじわと広がっていき――木はメリメリと音を立てて倒れた。倒れた後も腐敗は続く。やがてただの土と化す。

 俺は左手を見る。肉が盛り上がり、すでに傷は塞がり始めて血が止まっている。

 腐蝕操作(サプロキネシス)。

 過剰再生(スーパーリジェネイト)

 かつてあの施設で兵器になるべく拷問じみた大調整を受けた結果が、これだ。

 あまりにも殺戮向きの能力。殺意と悪意で設計されたこの身体――。

 化け物だ。

 この世界においても。

 生まれてくる時に母親を腐らせ土に変えた。父親に育てられたが、これもある日のある時に腐らせて殺した。両親のいなくなった俺でもまだ前の村長は見捨てずに養育しようとしてくれた。たしか5歳だったか6歳だったかのころで、この頃には前世の記憶を思い出していたから俺もガキにしては物分かりがいいようにふるまっていた。

 それでも、殺してしまった。

 寝ている間は無意識で能力を使ってしまう。寝返りを打つように、そばにいる人間を腐敗させて土くれに変える。

 代替わりした村長は俺を呪われ子と呼び、石を投げて追い出した。これが10歳の時で、まあ当然の処遇だと思った。

 クディタは、俺と同じで親無し子だった。前の村長の元では一緒に暮らしていた。家族のいないクディタの方からしたら、俺は兄のように思えたのかもしれない。あの頃からやたらと懐かれ、俺のそばをうろちょろしていた。

 もしかしたら殺されていたのは村長でなくてクディタの方だったかもしれないのに。

 村にいた時に聞いたが、この世界には魔法だとか竜だとか、そんな非科学なモノが存在しているらしい。俺の村では魔法なんて使える者はいなかったが、それでもかつて俺のいた現実よりもファンタジーというか、物語めいた世界であることは確かだった。

 しかしそんな世界においても、俺は怪物なのだ。魔法が使える者よりも俺の方がよっぽど恐ろしく、よっぽど人間離れしている。

 すでに完全に傷の塞がった左手を見て、ため息をつく。一度死んで、別の世界に来てもやり直せないなんて。この呪われた身体をずっとひきずって生き続けなければならないとは。

 普通の人間になりたかった。普通の幸福というやつを、感じてみたかった。

 ただエミと兄妹仲良く暮らしたかった。たったそれだけの願いすら。俺には不可能な願望だった。