もともと超能力が使えた俺だけど、異世界に転生してみたらすっげえ無双できたwww5

 先ほどまで降っていた雨はすでに止んだ。

 森の、例の村に近い辺り――。

「あの小娘手間取らせやがって」

 男ががさがさと草を踏み分け、歩いている。ズボンが濡れることに文句を言い、いらだったように地面を蹴る。納得いかないことがあるのか、さっきからぶつぶつと独り言が多い。

「本当にこの森に逃げたのかよ、あの呪い子の森じゃねえかよ……」

 何かに怯えるように周囲を見渡す。

「こうしている間に、あの呪い子に見つかったらどうするんだよ――」

「鋭い。もう見つかってるけど」

 俺は背後からその男の首をつかむ。

「う、うわ――」

「腐れ」

 首元が瞬間的に青黒く変色し、皮膚が溶け、ぐじゅぐじゅとした肉がむき出しになる。

「――っ!」

 男は叫びをあげようとするももはや声にならない。

 腐敗はそこから伝うように広がり、瞬く間に首がもげて地面に落ちた。その後、前のめりに身体が倒れる。

 腐敗を人体に向かって使うのはこれで何度目だったろうか。人を殺したと言うのに無感動で何も特別な感情が浮かんでこないのは、施設で受けた大調整の成果か。

「……」

 森で獣相手に狩猟やってた身からすれば、人間なんてものはあまりに狩りやすい獲物だった。すぐそばまで近寄っても何も気づかない。まだ獣の方が勘が鋭く狩りづらい。

 すでにこれで三人目。

「そろそろ村に行くか」

 言い聞かせるようにそう言う。

 おそらくエミを捜しに来ている者はそう多くないはずだ。三人も殺せば十分。それよりも大元を断つべきだろう。

 村に向かって踏み出しかけて、ふと気づく。俺は後ろを振り返った。

 そこには、さっきまで人間だった、黒土の詰まった服があった。

 

 まともな布製の服を着るのは久々のことだ。少しサイズが大きいが、それについては文句を言うまい。原始人からすれば布というだけで貴重だ。

 チェニックとズボン。中世ヨーロッパの何てことない寒村の服装といった様。

 俺はチェニックの腰のあたりを紐でしめると、村に向かって歩き出す。

 

 久々に生まれ故郷に帰ってきた。例の村は相も変わらず小規模で、貧しそうに見える。簡素な木の平屋がぽつぽつと建ち、あとは畑くらいしかない。

 村の入り口から中へと歩を進める。

「呪い子――!」

「呪い子だ……」

 俺の姿を見た村人連中が、口々に言う。今の俺が十五歳で、ここを離れた時は十歳だったから、五年ぶりの再会だ。よく顔を覚えているものだ。あれから成長期をむかえ、顔の形も変わっただろうに。

「な、何をしに来た!」

「…………」

 比較的大柄な男が鍬を持って俺の前に立ちふさがろうとする。

「来るな! 殺すぞ!」

「殺せばいいじゃねえか」

 躊躇なく進む俺に、一瞬たじろぐ。それでも男は鍬を振り下ろす。

 即座に首を右にひねる。鍬は左肩に深々と突き刺さった。返り血が男の手まで飛ぶ。

「そういや、この能力がどういう仕組みかまでは、おまえらに教えてなかったっけ?」

 大男が鍬を取り落とし、自分の右手を押さえてひざまずく。ぐがあ、とうめき声をあげている。

「体の端から微生物に食い殺される気分はどうだ?」

 俺は肩から鍬を抜く。血が噴き出すも、それもすぐ収まる。大男はすでに身体の右半分が溶けてこと切れていたようだ。

「こっちも伊達に兵器やってねえよ」

 周囲に視線をおくる。今のを見て、こちらにちょっかい出せるほどに肝の据わったやつはいない――

 いや、そんなこともないようだ。

「……魔法ですかな。人族風情が?」

 声の主へと頭を向ける。俺は少し驚いて開きかけた口を閉じた。

 翼だ。

 背中から翼のようなものが生えている。顔にのっぺりとした白い仮面を被っていて人相がわからないが、たぶん男だろう。天人族とか呼ばれる人種だったはずだ。片手に美しい白銀色の杖を持ち、その服装もこんな村にはあわない豪奢なものだ。

 いわゆる、前世の人間と変わらない人族という種族の村で生まれた俺は、他の種族を見たことが少ない。この世界において人種はもはや身分の差に直結し、人族が最下位種族と呼ばれ、その上に下位、上位、最上位と続く。天人族はたしか上位。人族が農民なら、天人族はちょっとした貴族くらいの立場なはずだ。

「人間を土くれに変える魔法? 土属性のようだな。何も詠唱していないように見えるが、トリックでもあるのか?」

「あんたは魔法士か? なぜこんな村にいる?」

「商品の受け取りに来たに決まっているだろう。こっちは血吸い姫さまのわがままでこんな人族なんかの村まで来てやってるんだ。少し口の利き方に気を付けたまえよ。私が質問したんだ」

 天人族が杖をこちらに向ける。

「でぃら どぐな うっる うしゅれきな」

 天人族が不思議な抑揚で呪文を唱える。

 その声に応えるように、地面が盛り上がると、先端がとがり、それが瞬間的に伸びて俺の腹部に命中する。

「がっ――」

 地面から伸びた槍に胴体を貫通され、俺は身体から力が抜けがくんと首を垂れる。

「天人族といえば風属性だと思っていたか? 土属性だって使える者もいるのだよ。私はこう見えて秀才でね」

 天人族が近づいてくる。

「死んでないのだろう? 死なないように打ったからな。魔法が使える人族は珍しい。血吸い姫とは別件で、そういう珍しい者を欲しがる金持ちがいる。良い拾い物ができた」

「風だか土だか知らねえが……」

「うん?」

「これは人を土に変える魔法じゃねえ。『有機物を分解する能力』だ」

 天人族は近づきすぎた。俺は靴に向かって、血を吐く。

「……汚いな、なんだ?」

「革靴だろう、それ」

「それがどうした」

「十二分に有機物だ。死ね」

 腐敗が始まる。

「おおおおおおおおおっ!」

 天人族が咆哮し、うずくまる。靴の血のついた部分からはじまり、身体にまで侵食する。足の先から全身へと腐敗は広がっていく。

「殺せるなら殺しとくべきだったな。俺は魔法なんて初めて見たんだ。避けられない」

 魔法の効力が切れたのか、土の槍がぼろりと崩れる。俺は腹部にあけられた穴から雑に土をかきだす。

 腹に穴が開きました、くらいで動じる俺ではない。大調整のために施設ではもっとひどい拷問をうけた。この程度は平気だ。すぐに治るし。

「人類種統合研究所の調整生物兵器。型番HYD―9、コードネームはヒュドラ―」

 石になったように周囲で見ている連中へ、ぺらぺらと流れるように前世の俺を自己紹介する。

「主な能力は腐蝕操作(サプロキネシス)、操作向上(アビリティコントロール)、過再生力(スーパーリジェネイト)。得意な任務内容は無差別殺戮。六頭蛇の中では唯一戦車相手に勝つことができない最弱者なんて言われてたな」

 腹に開いた穴から血を手にすくいとる。

「俺の能力は身体に触れた有機物を分解する。俺から流れた血も身体に含まれる」

 周囲で見ている奴らに向かって腕を振って血を飛ばす。悲鳴が上がる。

「皆殺しだ。本来なら上空から噴霧器で血を散布して殺す仕様だがな。手ずから腐り殺してやるよ」

 俺は逃げようとする村人の背に飛びかかった。