もともと超能力が使えた俺だけど、異世界に転生してみたらすっげえ無双できたwww6

  空が青い。天気が悪かったあの日とは大違いだ。

 あの村で、俺は仕事にはげんでいた。無人の家屋から使えそうな道具や売れそうなものを運び出すという大事な仕事だ。ただし俺は前世の感覚に照らしあわせて選んでいる。この世界の価値基準をいまいち理解できていないために自分の選択が正しいかどうかわからない。あとでエミに訊こうと思う。

 前世で言う空き巣めいているが、もうこの家屋の持ち主がここに戻ってくることは無いため、心が痛むことは無い。それに、あれだ。前世のゲームでも、勇者は村人のタンスから勝手に道具を拝借しても良いことになっていたじゃないか。

  なんて考えて自分で苦笑いする。

 勇者なんてガラじゃない。ただの殺戮兵器だろう。

 俺は久々に、人間らしい暮らしをしている。

 生まれ故郷の村で、俺とエミは生活していた。

 村人はいない。俺とエミの二人っきり。家屋も大量にあるし、食料だって満ち足りている。服も鉄器も使い放題。快適で、おだやかな暮らしだった。

 エミは村人が死んだと聞いても大して悲しまなかった。日常的に虐待されていたのか。誰も味方はいなかったか。

 だからこそ唯一味方になってくれるかもしれない俺の所に足しげく通ってたのだろう。

 それを察せなかった俺が愚かだった。

 鉄器をかついで村の中央に持っていく。様々な道具に囲まれて、エミが地面にしゃがみこんでいた。大人しく地面に絵を描いている。中々、上手な絵だ。犬と人が並んでいる。

「あ、あの、ソータ」

 近づく俺に気づいたのか、エミは顔を上げる。俺と目が真っすぐに合う。

「なんだ?」

「村、出るって本当ですか?」

「昨日言ったろう。この村は危ないからな。引っ越す」

 エミは不安そうに眼を伏せた。何となく俺まで悲しい気持ちになる。

「大丈夫だ、俺がついている」

 そう言うと、俺はエミの頭を撫でた。くすぐったそうに目を細めるエミ。

 幸せな時間じゃないか。そう。こういう時間が欲しかった。当たり前に幸福な、もっぱら普通で何の変哲もない平穏な日常の時間――。

 エミと呼称するようになってからこの調子だ。俺の脳みそのポンコツっぷりには笑いが出る。クディタと呼んでいた時はこの娘が苦しもうが死のうが関心が無かったというのに。しかしある意味、俺はそのポンコツ脳に救われている。これも大調整の結果か。

 相当、気持ち悪いことをしている自覚はある。しかし、俺は決めてしまったのだ。

 前世で失われた、エミとの暮らしをこの二度目の人生で取り戻す。

 そのためにはエミが必要だ。しかしエミはいない。どこにもいるはずがない。

 エミがいないなら――

 代替品が要る。

 この、新しいエミは、きっとエミの代替品としての機能を最低限果してくれる。何故なら、このエミにとっても、俺は代替品だからだ。家族、友人。この娘が失って、故に欲しがっていたものの代替品。俺は兄として振る舞うことで、エミの欲する機能の最低限を果たすだろう。

 代替品同士であるがゆえに、きっと上手いこといく。俺はエミを大切にするし、エミは俺のことを慕ってくれるはずだ。

 そうでなければ、新しいエミを用意するだけ。

 自分の右手を見つめる。

 生殺与奪の権はこちらが握っている。エミの立場など吹けば飛ぶようなものだ。だからこそ利用しやすい。

 いつでも殺せると思えばこそ、俺はエミを大切にできるだろう。

 

 

 あの殺戮から三日経っている。今のところは平穏だが、これからはそうもいかないだろう。

 村人の何人か殺し損ねて逃げられたが、それはどうでもいい。村人自体は。

 問題は、連中が俺のことを国なり軍なりに訴え出るはずだということ。

 人族は最下位種族だ。その命の価値は低い。ともすれば犬や猫の方がまともに扱われているかもしれない。だからといって、村ごとの大量殺戮を国家が見逃すかと言われれば微妙だ。

 最下位種族の村に生まれ、物心ついたかと思いきや原始人生活を繰り広げていた俺には、この国がどのような統治をおこなっているのかいまいちわからない。

 もしかしたら人族よりも天人族のあいつを殺したことの方が不味かったかもしれない。上位種族は貴族のような特権階級だ。あいつの雇い主はあいつが帰ってこないことをいぶかしんでいるに違いない。

 とにかく、この村に、兵隊なり調査団なり何かが送り込まれてくるのではないか。俺はそう思うのだ。

 そうなると、不味い。

 魔法とやらは俺を殺す可能性がある。魔法について、俺は知らないことだらけだ。どこからどこまでのことができるのか。超能力に比べて勝っているとしたら、俺では対処できない。

 この間の天人族は手を抜いて攻撃してきた上に、俺は不意打ちを行った。だからこそ殺せただけなのかもしれない。要注意だろう。

 魔法以外の方法だってそうだ。どんな道具や手段が存在するのか全くわからない。この世界のことを俺はよく知らない。この村の人間は基本的にこの村で一生を過ごす。人族は最下位種族だ。このとても狭い世界のことしか知らずに一生を過ごす。その村で過ごした俺が、何かを知っているわけがない。

 俺はこの世界においては何も知らない赤子のようなものだ。

 あの天人族は何か羊皮紙のようなものを懐に持っていた。靴と人体だけを腐食させるように調整したがために、その羊皮紙は無事だった。だが――。

 読めない。何も。のたくったミミズが複雑に絡まり合う文様にしか思えない。というか縦読みなのか横読みなのか、横読みだとするなら右からなのか左からなのか。そんなことすらわからない。

 エミに尋ねたが眉を下げて首を振っていた。エミも読めない。そりゃそうだろう。

 最下位種族の人族の教養などこの世界で最低レベルだ。字など読めるわけがない。

 村長の家を家探ししても、本どころか紙一枚出てこなかった。俺が原始人生活していた時、村は文明的に見えたものだが、前世の基準で見れば十分非文明な弱者の村だった。

 この世界は中性レベル程度の文明はあるはずだ……おそらくは。きっと、この村の文化レベルが低いだけで。

 町に出よう。そこでエミと暮らすのだ。

 国家によっては人族は奴隷のような扱いを受けているそうだが、この国ではそれを禁じられている。俺には超能力がある。ただの人族ではない。

 あの天人族も魔法だと勘違いしていた。魔法が使えるのは上位種族か最上位種族だけのはずで、つまり魔法が使えることが特権階級である証拠となる。俺の超能力を魔法だと偽ってさえいれば――町に出てもひどい扱いは受けないのではないか。

 最低でもこの村に居続けるよりはマシなはずだ。

 売れそうなものや貨幣をできる限り用意する。この村が貧しい村だと言っても、全てかき集めればそこそこの値になるはずだ。それを元手にして、何とか町で暮らすのだ。

 妹に少しでもいい暮らしをさせてやろうと思うのは、兄の務めだしな。

 自虐的な笑みを浮かべ、俺は作業を続けた。