四方八方からヒグラシの音が聞こえる

朝夕はもはやヒグラシに包囲されているかのようなありさまで、四八方からその声が聞こえる。自分は山奥に来る前も田舎暮らしであったためにヒグラシなんて大して特別とも思わないが、それでもここまで多重音声として聞こえてくると、なんだか感じ入るものがある。ヒグラシは森や山など、人里離れたところを好む。故に、私が実家で聞いていたヒグラシの声は離れたところから響いてくる淡いものだった。今山奥で聞いているのはある種暴力めいたヒグラシによる蝉時雨である。

 

ヒグラシの標準的な聞きなしとしては「カナカナカナカナ……」とされるが、個人的には「キキキキキキキキキキキ……」だと思う。甲高いものの金属音めいてはいず、どこか悲し気に聞こえる。ガラスの筒を金属の棒で叩いたような、キン、とした音が近いイメージ。

 

俳句的にはヒグラシは秋の季語である。実際には7~9月あたりに鳴いている虫であるが、まあ、夏の間は他の蝉の声が大きいしな。

 

日暮の音に撃たれけり夕間暮れ             秋雷

 

でも山奥で風情さとか求めてる人ほとんどいないんだよな……星すら見ない者も多いし。あーあ。