体重が増えた

49.5kg。まさかの1日で1kg増えた。

 

もはや異常である。体調が悪くて食欲があまりなかったはずなのに。もともと超軽量級で「食べても太らない」はずの人種が1夜にして1kg増というのはかなりの異常事態だ。

 

急激な質量の増加。1日で2%増なのでこのペースで体重が増え続ければ、三か月後には体重300kg近くなっている計算だ。すごい。現在の6倍である。

 

これはもう、何らかの超自然的な力が関与しているとみて間違いなかろう。

 

 ともすれば、羽化前なのかもしれぬ、と思う。思い当たる節がない事もない。最近の私ときたら、なんとなしに「あー、動くの億劫だなあ、翅あったら便利だろうなあ。糸吐きてえなぁ」と思う日々を過ごしていたのであった。成虫になるための材料をため込んでいる時期なのやもしれぬ。

 

ある朝、私はサナギになっている。糸で全身を覆い、繭を形成し、その中でどろどろに溶けるのだ。そして成虫原基を元に、身体を作り替えて、成虫となる。

 

繭を破り、現れるのは、翅の生えた私である。当然のように足は6本あるし、触角も生えている。目は複眼と単眼の双方を併せ持っている。

 

ギチギチと翅をこすりあわせて鳴いてみた後に、私はパソコンに向かって、成虫になった所感をまとめてブログに書いてみる。そういえば翅があるのに飛んでないななどと思うも、いきなり飛ぶのは怖いのでまた今度の機会にしようと思う。

 

完全変態した私はもはや従来の私ではない。完成形態である。当然、筆力もそれはそれはすばらしいものになっているだろう。その身で、三日三晩寝ずに小説を書き上げて、それを投稿する。むろん、作品は大盛況を博して作家デビューにまでこぎつける。

 

が、おそらくそのころには私は死んでいるのだ。おおよそ昆虫の成虫ともなればその寿命は短い。体積が大きい分、他の小型昆虫よりは長生きできるだろうが、おそらく1年ももつまい。

 

そもそも変温動物であるゆえに冬の寒さに耐えられぬ。

 

まあ、でも悪くないな、などと内心ごちる。太く短い生というのも良い。人間なのか虫なのかわからぬ従来の生き方ではなく、明確に虫となって、虫の身で大成して死ねたのだから悪くない人生――ならぬ虫生だったな、などと思うのだろう。

 

家の者は泣いてくれるだろうか。虫となった私が死んでも。しかし、虫であっても私なのだ。私が死んだ日――。

 

うーん。

 

やっぱ死にたくはないな。まだやり残したことのある。虫になるのはまた今度の機会にしておこう。そういう対応の柔軟さこそが良い大人というものではなかろうか。

 

どこで付けたか肩に桜一片              秋雷