山奥ニートお通夜会場
おとついの夕飯時。いきなりバナシさんが重要な連絡があると言った。
山奥ニートたちの間にすこし緊張感が走る。バナシさんが重要な話をするというのも珍しい。もしかして何かトラブルが……? まさか逮捕者でも出たのか……? 様々な憶測が飛び交う中、彼は言い放った。
「結婚する」と。
……はぁ!?
ケッコン。はあ、ケッコン……血痕? 血痕する? 血痕スルー?
結婚するだと!?
一瞬静寂に包まれたかと思うと、食卓が少し沸いた。おめでたい話題じゃないか。おめでとうございます。良い話だ。いい話……。
しかし山奥ニートら、何か思うところがあった様子でその後ギクシャクし始める。普段なら和気あいあいと会話が尽きぬリビングだが、何故か不気味な静寂が流れる。何とか雰囲気を和らげようと誰かが冗談を言って、乾いた笑いが起き、また静寂に戻る……人が死んだみたいな重い雰囲気だった。
あ、お通夜だコレ。って思った。
バナシさんのブログの記事。詳しいことが書かれている。
さて結婚は人生の墓場だというが、まあそれはケースバイケースだろう。しかし、結婚したらある意味、人は死ぬんじゃないかと私は思う。
死んで、また別の人間になる。という意味での死。
まあバナシさん当人的には死んだつもりないのかもしれないけど、私たち周りの人間からすれば、独身のバナシーが死んで、既婚のバナシーが生まれた、くらいの気分だった。
バナシさん曰く、結婚したと言っても何も変わらないそうだ。何も変わらない……何も……でも独身のバナシーは死んだ。もういない。
何だろうね、このショック。おめでたい話だよ。いい話だよ。だけどスゲエ衝撃。何だろうね。悔しいとか妬ましいとか、そういうんじゃない。でも素直に祝福できない気分。
何か、いっきに遠くに行ってしまった感があるからかなあ。
バナシさんと私を分類したときに、共通項がいくつかあって、「山奥ニート」だとか「20代男性」だとか……いちいち細かいところまでは書かないけど、そんな共通項があるおかげで、割と遠いようで近しいと、勝手に思ってた節がある。それが急に結婚だ……大いなる違いができてしまった。急に距離が開いた。なんだか遠い遠いところに行ってしまった。そんな感じ。
アイドルとか福山雅治とかの結婚より辛い。辛いけど、良いことだよ……良いこと。
夏深し慶祝したくも虚を突かれ 秋雷
バナシさんご結婚おめでとうございます。山奥ニートなのでご祝儀は出せませんが草葉の影からお祝い申し上げます。