逆ホームシックが酷いので、山奥に初めて来た頃の話でもする
帰りたい、あの山奥へ。
そういえば割とくまのプーさんって哲学っぽいこというよね。「今何してるの?」「何もしてないをしてるのさ」とかさ。ほんと、山奥ニート的には目指すべき人物はくまのプーさんだよね。「くまのプーさん 名言」で検索すると出るわ出るわ。さすがホームラン以外はヒットと認めない人は違うなあと思う。かっこいいよ。いつもハチミツばかり食べてるしさ。ちょっと体形と人を食ったような性格がバナシさんに似てるよね。
山奥には「何もない」があるんだ。プーさんの丸パクり。帰りたいよ。
さて前置きはこれくらいにして、タイトル通り、山奥に初めて来たときの話でもしようか。
本来、長期滞在目的の人は一回下見にいくべきなんだけど、私はいきなり行っていきなり住み着いた。ブラック家業に従事していた私は下見に行く時間がなかったのである。ホントごめんなさい。
もうね、あの頃の私は酷かったね。人見知りだから。あの頃の私は、他の人たちからすれば、いっつもリビングのスミッコで本読んでる暗いやつって認識だったと思う。
うわー、マジ暗いやつ来ちゃったよ。雰囲気悪なるなあ、って思ってたんじゃないかな。みんな。優しいから声には出さなかったけど。よくないよね。暗すぎて周囲に火の玉飛んでたもん。
あと、私が来た時にはすでに部屋が満室で、空きスペースに寝てくれって言われた。11月のはじめころ。もうすでに寒くなり始めていた。まあでもしょうがないよね、って思ってたら自分のとなりになんかデッカイ人がいた。
怖い。
デッカイ人と同じ空間で寝させられるのである。脅威だ。腕っぷしで勝負すれば確実に敗北する。もう自分より目線がはるか上にあるというだけで威圧感が凄い。声もでかいし。怖い。
G先生である。
じつはG先生は私より少しだけ山奥先輩で、つまり同時期にやってきた二人は部屋が無いのでいっしょに寝ることになっていたわけだ。でも全然仲良くはなかった。一言もしゃべらなかった。私が一方的に恐怖してたのが悪いのだが、でもこええよあんな巨人。20センチ以上も目線が上なんやで。怖い。
今では仲良しであるが、当初はだめだったなあ。ごめんね。冷たくして。こわかったんよ。許してくれや。
あまりにもG先生と一緒に寝るのが嫌すぎて、物置と化していた離れの部屋を片付けて住み着いた。だから離れに住んだのはG先生より私の方が早い。わりとG先生は長期間部屋なかったように思う。
あと、あんまりにも暗黒のオーラを背負い過ぎて、Jさん(仮名)がよく構ってくれた。当時の私は自分から話しかけられなかったからね。Jさんから話しかけてくれるのは本当にありがたかった。よくボドゲで遊んでくれたっけ。ボドゲ好きになったの、Jさんのおかげなんだよ。ほんと今でもJさんには頭が上がらない。Jさんに「靴舐めろやピエール」って言われたら躊躇なく実行するレベル。言わないけどね。そういうこと。
バナシさんもよく話しかけてくれてたけど、やっぱり一番世話になったのはJさんだなあ。私がJさんのこと慕い過ぎて「Jさんの弟子」とか言われるし。Jさん気配りができる人だからね。わりと面倒ごととかあるとバナシさんはいつの間にか逃走してたりするけど、Jさんは文句言わずにやってるもんな。あとバナシさんは私がはじめて共生舎でご飯炊こうとしてお米の量を測っていた時に「今何時?」ってしつこく訊いてきたからね。時計なんかその辺にいくらでもあるのに。そのせいで分量間違えてお米固くなっちゃったからね。落語かよ。絶対に許さない。
あとピエールって名前ね。これただのハンドルネームじゃなくって、実際に共生舎でそう呼ばれてるのよ。冗談みたいだけど本当の話。これもねー。いろいろエピソードがある。
まず最初は普通に「名字+さん」で呼ばれてたんだよね。「田中さん(仮名)」みたいにね。
これがねー。根暗な陰キャなりに、「もっとみんなと親しくならなきゃ」って思ったんだよね。で、G先生とかみんなから「Gくん」「Gさん」って呼ばれててめちゃ愛されてるから、そうだ、あだ名で呼んでもらおうって思ったんよ。あだ名って、親しそうな感じするじゃん?
だから私はこう呼んでもらうことにしたのよ。
「ヤバ」ってね。
この「ヤバ」ってあだ名は昔、大好きだった恩師につけてもらった名前で、めちゃくちゃ気に入ってたんだよね。もし小説家になったらペンネームに入れようと思うくらいに。実際、そのころのゲームのユーザー名とか全部ヤバだったからね。つか今でも名前が付けられるキャラにはヤバってつけるからね。
はい、見事なまでに定着しませんでした。
そりゃそうだよね。部屋のハシッコに座って本読んでばかりいるめっちゃ暗い奴のことをいきなりあだ名で呼ぼうと思う人いないもんね。それも「ヤバ」って由来不明だし面白くもないしね。ずっと「田中さん(仮名)」って呼ばれてた。しょうがないね。
で、まあこれについては半ばあきらめてたんですよ、実は。もういいや、あだ名で呼ばれる必要ないよねって。
だが事件が起きる。
共生舎によく遊びに来る地域協力隊の人が、「ヤバ」はバッドマインドな名前だって言ったんですよ。まあどうせ定着してないあだ名なんで、バッドでもグッドでも関係なかったんですけどね。はいはい、って聞き流してたんですけど。
で、彼は言いました。
「ハッピー」って呼ぼうと。
犬でも今どきいねえよ!! すっげえ嫌だよ! 成人男性で「ハッピー」ってあだ名すっげえ嫌だよ! 脳みそお花畑みたいやん! つか共生舎だとわりと笑えねえよ!
ここで私は恐れたのである。
ちゃんと定着するあだ名を考案しないと、「ハッピー」にさせられてしまうと……。
この恐怖はすごかった。もし「ハッピー」で定着してたら下山してたと思う。それくらい嫌だった。
確かその時点ですでに一か月は経っていた。もう完全に「田中さん(仮名)」で定着していた。この現状を覆すにはどうしたらいいのか。
定着するあだ名についていろいろ考えた。
1、インパクトがあること
2、面白いこと
3、呼びやすいこと
この三拍子を満たすことが肝心だと考えた。「ヤバ」は全部満たしてないもんね。でも「ハッピー」は全部満たしてんだよな。怖すぎ。
で、頭をよぎったのは学生時代に戦略的に用いていた名前「ピエール」である。
そう、実は学生時代から用いていた名前だったのだ。
当時、文芸部員として大会などを通じて他校の生徒とよく交流するのだが、いかんせん会う回数が少ないのであまり顔と名前が一致しなかったりする。そのままでは印象に残らず、忘れ去られてしまう。それでは良くない。ここでできる限り印象に残らせるにはどうしたらよいか。
そこで「ピエール」というあだ名で呼ばせることが良いと考えたのである。
「田中さん(仮名)」より「ピエール」の方が圧倒的に印象に残るし、すぐに打ち解ける。「田中さん(仮名)」が寒い発言をしたら空気が凍るが、「ピエール」が寒い事を言っても「もうピエールはしょうがないなあ(苦笑)」みたいな雰囲気になる。
会う回数が少ない中、強烈な印象をつけた上で圧倒的優位に立つことができる。
学生時代の私は本当に「少ない努力で利益を最大化させる」ことに心血を注いでいたなあ。自分のことながら感心する。
そういうわけでピエールって名前で呼んでもらうことにしたわけですよ。それでも一回定着した名前は中々覆らなかった。とても難儀した。
この件の功労者はバナシさんだ。率先してピエールと呼んでくれた。「田中さん(仮名)」と「ピエール」だったら後者のが面白いって思ってくれたんだろうね。バナシさんが呼んでくれてたからこそ、じわじわ他の人も呼ぶようになったんだ。この件については本当に感謝してます。でも米の件については絶対に許さない。
まあ実は。
ピエールって名前そこまで好きじゃないんだけどね(爆弾発言)。
「ハッピー」よりはマシだし、それに現にその名前で親しまれてるしね。最初ん時は全然馴染めてなかったけど、今ではもう共生舎メンバーの一員だ。個人的にはファミリーだと思ってるからね。向こうは思ってないかもだけど。
それに必ずしも好きな名前が良い名前ってわけじゃないなって思う。「ヤバ」だったらこんなに馴染めなかったんじゃないか。「ハッピー」は論外だが。やっぱり学生時代の私が考えたように、戦略的に優れた名前なんだよ、ピエールって。呼びやすく馴染みやすく親しみやすく面白い。
それに、今ではみんなから「ピエール」って呼ばれるおかげで、もう自分のこと「ピエール」だと認識してるからね。「田中さん(仮名)」って呼ばれるともはや違和感すらある。
Kくん(仮名)は未だに「田中さん(仮名)」って呼んでくるけどね。G先生のことは「Gさん」って呼んでるのに……距離を……感じて……辛い……
あとG先生は「ピエールさんって呼びづらいからピエピエって呼んでいいですか」って言ってきたけどこの件については絶対に許さない。
こんなとこかな。最初は酷いもんだったけど、最終的には共生舎のピエールはとっても馴染めた。今、山奥にいないことに違和感を感じるくらいに。私は、こんな私を受け入れてくれた共生舎のみんなのことが大好きだ。いつか何らかの形で恩返しできればいいなあと思う。
盆帰省あの思い出はカラー刷り 秋雷
あ、バナシさんの米の件だけは絶対に許さないんで。あとテクのゴミの件も。
G先生のブログ。宣言通り、私がいなくなってから毎日更新している。偉い。今、山奥の情報を知りたければここを頼るほかない。